1988年6月の『ネイチャー』に掲載されたベンベニスト博士の論文を否定する論文はいかにして捏造されたか?(その2)

ベンベニスト博士の論文の調査委員会の構成メンバーであるチンピラトリオ(ジェームズ・ランディー、ウォルター・スチュワート、ジョン・マドックス)が引き起こす、実験が科学の次元を遙かに超えたものと変貌していく様子を、前回と同様『真実の告白――水の記憶事件』からご紹介します。

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1988年7月4日『ネイチャー』の3人の調査チームは、張り詰めた空気のなかでクラマールにおける活動を開始した。われわれは5日間にわたっていくつかの実験をしなければならなかった。

 最初の2日間は4つの実験が行われた。一つはうまくいかなかったが、残りの3つは決定的ともいえるほどよい結果が出た。なかでも盲検法(目隠し実験)は最もよい結果が出たほどだった。私はジョン・マドックスたちが困惑しているのを感じていた。

3日目、ジェームズ・ランディの提案した符号づけによる一連の盲検法が行われた。これに関連して起こった事件のエピソードは後に悪いニュアンスをこめて報告され、この調査チームの目的を垣間見せることとなった。

ランディは試験管の暗号表をつくり、それからそれをアルミホイルで包み封筒の中に入れた。封筒は粘着テープで天井に固定されるという仕組みである。翌日暗号解読のときになって、ランディは封筒を天井にくっつけるときに使用した軽量ばしごが動かされていることに気づいた。彼は、はしごの位置まで正確に印をつけていたのだった。この謎解きは簡単だった。私の研究チームのヨレン・トマが研究室に入ったとき、このはしごが部屋の真ん中に置きっぱなしになっているのを見て、いつもの場所に戻さなくてはと判断して動かしたのだった。封筒を天井から回収しつつ、ランディはさらに封筒の折り返し部分がはがれていることを指摘した。しかしながら結局のところ暗号表には手がつけられていないことは認めた。これら一連の事件は『ネイチャー』に掲載され、あたかも不正が行われたかのような悪い印象を読者に与えたのである。

ランディのきわめて素朴な符号づけによる最初の盲検法が、完璧といっていいほどの結果を出していただけに、この事件はいっそう嘆かわしかった。実験の結果得られる、例の曲線は非常に満足のいくものになり、われわれが以前に得たことのある最良の結果(これについては私はすでに論文のなかでそういう結果を得たことを強調していた)に匹敵するものとなった。

『ネイチャー』の論文のなかで、私の話は“手を加えられ”以下のようにねじ曲げられた。「私たちは今まで行った実験を通しても、このようにすばらしい結果を得たことはなかった」と。こんなことは言ったことがない。なぜなら6月に出版された『ネイチャー』に掲載された論文のなかで、すでにかかる曲線を得たことを発表していたし、イタリアのチームによる実験によっても、このような最良の曲線はすでに得ていたからである。

次第に不健全な空気が研究室を覆いはじめたスチュワートが訳のわからない理由で叫びだすヒステリー発作を起こし、マドックスが落ち着くようなだめなければならない場面が何度もあった。

また盲検法を行っているとき、ジェームズ・ランディが手品の芸当を披露することに熱中し、時計の針を触らずに回してみせたり、仕事中の研究者の背後で大笑いを始めたりしていた。

このような目立ちたがり屋を私の研究所に迎え入れたことは実に痛恨のきわみであった。やつらをたたき出したくて私の我慢はもう限界であった。

この張り詰めた空気のせいで、私の研究チームのなかのエリザベート・ダヴナの集中力は大きく損なわれた。彼女は緻密で難しい実験をこなすことのできる優秀な研究者である。一日中、顕微鏡をのぞき込んで好塩基球を数えることができるが、そのため数分たつとひどい頭痛に襲われることは誰もが知っていた。ましてや操作中に興奮した人が彼女の耳元で何かを叫んだりすればなおさらである。エリザベートは優秀な研究者であると同時に非常に繊細な若い女性でもあることから、論争や争いには全く耐えられなかった。私は何度も彼女が目に涙を浮かべているのを見た。

いちばん危機的な状況だったときなどは、研究室のガラス越しに私は彼女を励まし慰めるため小さなキスを送った。これに対しアングロ・サクソンの清教徒(ランディ)は声高に私と彼女との関係を問いただしてきた。好塩基球の運命はひそやかな愛の波動の影響を受けて……。

最後の2日間はわれわれに要求される実験操作の量があまりに多くて(われわれが通常こなす量よりも2~3倍多かった)実験終了の見通しが難しくなった。最初の実験――これはポジティブだった――が納得のいくリズムでなされたのに対し、今度はそのリズムを急に上げろという。そのためにリスクも負わなければならない。通常のやり方に反して、実験操作手順などの決め事がジョン・マドックスから前もって知らされたことは一度もなかったことをここに付け加えたい。私はそうすることを要求しなかったことで、一方では罪悪感も感じた。その結果、実験における秩序、リズム、様式はすべて偽エキスパートによって絶えず変えられかねない状況になった。

たとえば不正行為を排除するという口実の下、ある一連の実験においてウォルター・スチュワートは希釈の操作を自分が行うことを要求してきた。彼自身はそういうテクニックに全く精通していなかったにもかかわらず

そして起こるべきことが起きた。最後の一連の実験の結果が、全く使えない代物になってしまったのである。2種類の実験において“基準”となるべきコントロール試験管(高希釈の抗免疫グロブリンEを含んでいないもの)がでたらめの結果を出したのである。もう1種類の実験においては、出た結果のすべてが解読不能であった。

この週のある夜、私は研究省大臣ユベール・キュリアン主催のディナーに招待され、ジョン・マドックスとともに出席した。トップレベルの15人のフランス人科学者やインセルムの所長フィリップ・ラザール、厚生省大臣レオン・シュワルゼンベールらがそこにはいた。

ディナーに赴く道すがら私は、今まで喉から手が出るほど切望していたが叶わなかったフランス科学界からの支援・支持を得られることを期待した。実際、私は大臣や政治科学的権威集団が著名なエキスパートで構成されたチームをつくって、私にどんな立証をすべきかや、結果につきいかなる解釈をし仮説を立てるべきか、または立てざるべきか等についてアドバイスしてくれることを望んでいたのである。

が、食事が始まるや、私はいかなる援助も当てにできないことや、この場に呼ばれたのは公衆の面前で糾弾されるためであったことをすばやく悟った。私はコレージュ・ド・フランスの教授(名前は有名らしいが、その傲慢さや地位の高さを正当化するだけの発見をしたようには見えない人物)から「フランス科学界の名誉を傷つけた」と非難されたからである。つまり彼が言いたかったことは、将来ノーベル賞候補となりうるような私の同僚からその可能性を奪った、ということらしい。

これ以降私は、テーブルの下に隠れてびくびくしている、権力に隷属させられた“フランス科学界”から見捨てられ、たった一人でわが道を行かざるをえなくなったのである。

水が生物化学的活動を再現することができると私が立証したせいで、30 年間さしたる科学的功績も上げることができなかったこの共同体(フランス科学界)が、「名誉を傷つけられた」というのである。まるで19 世紀であるかのようにフランス科学エリートは、空気よりも重いエンジンが空を飛んだり、隕石が大気中を移動するという考えが愚かだ(かつおそらくは「不名誉」である)と判断しているのである。

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つまりはこういうことです。ベンベニスト博士はチンピラトリオが見つめる中、最初の2日間の間に4つの実験を行い、1つは失敗、残りの3つは決定的とも言える成功をおさめました。本来なら、4回中3回の実験結果が、水に抗IgE抗体の情報が保存されていることを示すものだったならば、水に抗IgE抗体の情報を保存する能力があることは確実な証拠となります。本来1つでも成功したならそのように言えるはずです。高希釈・震盪水が本当にただの水だというなら、対照のコントロール実験と同じでヒト好塩基球は反応しないはずだからです。

当然、ホメオパシーを葬り去るために招集された選り抜きの3人がこれを面白く思うはずがありません。上記一つとってみても、もとよりこの3人が、事実を事実として客観的に評価するつもりは全くないことは明白です。

このままでは大変まずいと考えた彼らはいろいろしかけてきます。トップバッターは、手品師、ジェームズ・ランディーです。不正のないところに不正があったかのような疑惑を作り出します。

どういう手口かというと、天井に符号を書いた紙を入れた封筒を貼り付けます。そしてはしごをわざわざ部屋の真ん中に置いておきます。そしてそれに動かしたらわかるようにはしごの位置をマーキングしていたというのです。

ちょっと考えてみてください。部屋の中央にはしごが置いてあったら、誰だって片付けようとすると思いませんか? そうです。不正がないところで不正の疑惑を作り出すために、天井に符号の書いた紙の入った封筒を貼り付け、あとは部屋の真ん中にはしごを置いておけばよいのです。

研究室に入ってきたとき、部屋の真ん中にはしごが置いてあるのを見つけた研究チームのヨレン・トマは、当たり前のことですが、はしごを定位置に片付けたのでした。そしてジェームズ・ランディーは、“はしごを使った形跡がある”と大騒ぎします。こうして、はしごが移動された形跡があったということをネイチャーに記載することで、読者が研究チームが天井に張り付けた符号を盗み見るために、はしごを使ったに違いないという疑念を抱かせることに成功します。

そして次の仕掛けが待っています。封筒の折り返しが剥がれていたと……。糊の種類と量と封筒の折による元に戻ろうとする力によって、時間とともに剥がれるように細工することなど手品師ならいとも簡単にやってのけるでしょう。

しかし結局のところ、暗号表には手を付けられていないことに同意しています。さすがに暗号表に手をつけていたとすると、犯人が必要となり、そこまではできなかったのでしょう。彼らの目的とするところを達成するには、不正が行われたに違いないという印象を読者に与えることができれば十分だったのです。そのために手品師ランディーが煙のないところでみごとに煙を出させることに成功したわけです。

そもそも、これは二重盲検法ではありません。なぜなら、ジェームズ・ランディーは、暗号内容を知っていたからです。本来なら第三者による第2の符号づけが行われるべきだったのです。検証チームの一員が符号を知っていたという事実が、そもそもこの検証が公正でないことを物語っています。

さあ、ジェームズ・ランディーによって不正の痕跡は創作されました。あとは、たいそうプレッシャーを与えて、実験が不成功に終わらせるようにすればよいだけです。

いよいよ、スチュワートの出番です。マドックスはスチュワートの耳元でこうささやいたのかもしれません。“さあ、思う存分暴れておやり”。それは想像ですが、スチュワートは、訳のわからない理由で叫びだすヒステリー発作をたびたび起こします。ベンベニスト博士の実験チームはエクソシストかオーメンかと思ったことでしょう。

そうかと思うと今度は、ランディーが手品の芸当を披露することに熱中し、時計の針を触らずに回してみせたりするのです。そうかと思うと、実験している人の背後に回り込み、突然大笑いを始めたりするのです。

もはや、ベンベニスト博士の研究室内は、異様な空間になっていたと想像します。ただ足りないものがあります。それは軽業師とクマ使いです。なぜマドックスは軽業師とクマ使いを調査委員会に入れなかったのだというベンベニスト博士の怒りがわかるような気がします。その空間に軽業師とクマ使いがいれば、シルクドソレイユだったということでしょう。第一、耳元で奇声や大声をだされたら、おちおち実験に集中できるわけがありません。

エリザベート・ダヴナの集中力は大きく損なわれました。操作中に興奮した人が彼女の耳元で何かを叫んだりすればなおさらです。かわいそうに、エリザベートは何度も泣きながら実験を続けていました。それだけではなく、通常の3倍の量を作業させたり、ペースを乱させたり、プレッシャーをかけたり、奇声を上げたりします。

BBCで念のためホメオパシー薬(高度希釈したヒスタミン)を添加する前に、好塩基球を死滅させると言われている化学物質を使っていたように、念には念をとマドックスがスチュワートの耳元でこうささやいたのかもしれません。“スチュワート、やっておしまい!”。それは想像ですが、スチュワートが実力行使に打ってでます。
いいから俺にやらせろと。

そして起こるべきことが起きます。実験結果はでたらめな数値になってしまいました。こうして彼らの目的は達成されました。それにしても、コントロール試験自体が基準となりえないでたらめな数値になってしまったというのは一体どういうことでしょう? ベンベニスト博士は言及していませんが、もしかしたら不正があった可能性は考えられないでしょうか?もちろん、調査委員会による不正です。

研究省大臣ユベール・キュリアン主催のディナーに招待されますが、これはベンベニスト博士を糾弾するために計画されたものでした。つまり、ジョン・マドックスによって、ベンベニスト博士は不正を働いた可能性があること、ベンベニスト博士の実験結果は再現性のないものであったことが証明されたと、同胞のコレージュ・ド・フランスの教授に通達し、多くの科学者の面前でフランス科学界の面汚しと罵ることで、彼の名誉、名声をすべて剥奪したのです。

哀れなベンベニスト博士は、子ネズミのように、テーブルの下に隠れてびくびくして生きることになってしまします。

ベンベニスト博士の実験は幻か?とするトリオによる論文とそれに対するベンベニスト博士の反論へとつづきます。

つづく。